アピチャッポン・ウィーラセタクン
「Memoria」
時の進行と光が緻密な関係を結ぶアピチャッポン・ウィーラセタクンの映像作品は、夢、家族の物語、抑圧された心理や抵抗の歴史などさま ざまな記憶を読み込みながら、長い眠りの果てに映る深層のイメージとなって立ち現れます。スクリーンに拡張した時間をさまよう亡霊は、 政治に翻弄される生の領域を横断し、闇と忘却、光と記憶の関係性のうちに強く刻印されていきます。
《メモリア》(2017年)は、ウィーラセタクンが母国タイを離れて制作した初の主要プロジェクトで、一連の写真や映像によって構成されています。タイのジャングル物語のルーツとなるアマゾンに親近感をもっていた彼は、南米の探索をはじめ、コロンビアを舞台にした映画製作に着手します。その中で、活発な火山や地すべりが絶え間なく自然の景観を変えるコロンビアの地形とそのトポロジーに惹かれていきます。新作映画では、主人公は幻聴と幻覚がむすびつく共感覚の一種を経験します。本プロジェクトにおいて、この映画と同様に、自然の変形や幾何 学的な形が視界に介入する表現は、コロンビアが乗り越えるべき暴力の歴史と相まって、不安定な精神状態を示唆しています。
本展を構成する新作シリーズは、コロンビア・キンディオ県にある山々や小さな町、声、そして巨大なトンネル建設計画「ラ・リニア」に焦点が 当てられています。コロンビア人アーティストエヴァ・アストゥディージョ(Ever Astudillo: 1948-2015)の、光と影、写真のレンズ、そして男性像の描写における考察は、ウィーラセタクンに深い感銘を与えました。アストゥディージョに敬意を表したこれらの作品は、白い発光が持つ静かな魅力を保ちつつ、個人的、そして集団的な記憶を照らし出しています。
ウィーラセタクンはまた、コロンビア西部のチョコでドキュメンタリーを撮影するために訪れたカナダ人俳優、コナー・ジェサップとの協働による映像作品にも取り組んでいます。展覧会のもう一つの重要な部分は、ビーチにたたずむこの被写体の孤独な存在です。ウィーラセタクンにとって、ジェサップはさまざまな地形、トラウマや記憶を統合する存在であり、彼の旅や、現実と想像の映画における夢を膨らませる力の根源として表されています。