ムン & チョン
「フリーダム・ヴィレッジ」
政治経済からエコロジーまで現代の諸問題を取り上げ、変わりゆく社会の未来像を映し出すムン&チョン。多分野の専門家とのコラボレーションを重視するリサーチ制作は、しばしば映像メディアを通じて作品化されます。映像のもつ流動的で自在な性質は異なる時空間を融合し、二人の作り出す空間は、鑑賞者の想像力を活性化して、先見的な思考を生み出す未来のビジョンを提示します。
ムン&チョンは、2009年、プロジェクト「News from Nowhere」で協働を開始しました。本展は同プロジ ェクトの一環であり、"フリーダム・ヴィレッジ(自由の村)"として知られる臺城洞(テソン・ドン)の小さな農村 についてのリサーチに基づき制作された作品群によって構成されています。"フリーダム・ヴィレッジ"は、北 朝鮮と大韓民国の国境、約4平方キロメートルに敷かれた非武装地帯(DMZ)内に位置し、休戦当時の住 人と、その直系子孫だけ居住することができる特殊なコミュニティとして、朝鮮戦争の終わりからいまも変 わらず存在しています。韓国国内でも多くを知られていないこの村は、歴史に置き去りにされた時間の闇であり、国家間の争いにおける深い溝、見て見ぬふりをするような意図的な忘却を象徴しています。
本展では、村の住民が撮影した写真によるドキュメンテーション、アーティストが制作した白黒フィルム、 数点の映像、および彫刻によるインスタレーションが配置されます。メインとなるフィルムでは、朝鮮戦争のニュース映像が荒廃した架空の実験室の場面に混ざり合い、ブレヒトの「異化効果(Verfremdungseffekt)」を用いて批判的な考察を促します。「この60年以上余り時が止まったままの村を通じて過去の幽霊を呼び起こし、今を生きる私たちが現在世界を取り巻く矛盾や制限にどのように向き合っていくかの試みです」とムン&チョンが語るように、本作を通じて私達の未来予想はさらなる深部に導かれていきます。
政治的対立が進行し、私たちの自然な想像力さえをもが拘束してしまう現在にあって、ムン&チョンは、こうした状況に見過ごされがちな感情的な理解を求めています。「政治システムは人間の行動や予測に基づいて作られるために、それ自体が偶発的な価値判断のアーカイブなのです。」ドキュメンタリーとフィクション両方の介入を通して、視覚と物語の総合的な可能性をおし広げるムン&チョン。今日の政治的現実を未来の解明に結びつけるため、人々の共感を通じて私たちの想像力をナビゲートします。