ジャック・ギオー (1811-1876年) によるドローイング チチェン・イッツァの中庭にある虎の浅浮き彫り(レリーフ)

ボスコ・ソディ
"Terra è stata stabilita"

2018年3月9日(金) - 4月21日(土)

ー ローマでは耐久性のあるレンガを特に使用した。土からつくったものだが煉瓦はごくゆっくりとしか土に帰ることなく、その建造物が明らかに砦、円形格闘技、あるいは墓所であることをやめた後にも、山のような体積として残るような、そんなふうな積み重なり方、また目に見えぬくずれ方をするのである。 ー
「ハドリアヌスの回顧録」マルグリット・ユルスナール著 多田智満子訳「ゆるぎなき大地」より


おが屑や岩を素手で扱い、素材との直接的な対話を重んじてきたボスコ・ソディ。アーティストの制作拠点メキシコ・オアハカ州で採取した原土を焼き上げた彫刻作品を、2015年から制作してきました。採取された土から不純物を取り除き、粉砕し、ふるいにかけ、馬力と人力を用いた昔からの手作業で粘土が精製されていきます。作家自らが練り上げ、空気を押し出すように叩きつけられて生まれた完璧な立方体も、焼きあがると収縮し、ひび割れや焼きムラなどによって、多彩な表情を生み出します。ソディの制作は、こうした素材の変形を創意に満ちた自然のジェスチャーととらえ、素材がもつ物理的な性質やその変化の偶然性を、自らの作品の根底に据えてきました。

ラテン語で「大地の確立と安定」を意味する本展のタイトルは、ローマ帝国の全盛期について書かれた書籍の一節であり、ローマ帝国の国土拡大路線を放棄して、国境の安定化と紛争の鎮静化とへと導いた賢帝として知られるハドリアヌス(76〜138年)に言及しています。本展では、ソディ自らが精製した粘土から、ブロック状の直方体に造形され、窯で焼かれた素焼きの彫刻1,600個が遺跡のように積み上げられ、2mの大きな立方体が現れます。それらの彫刻作品は、会期中、訪問者の参加によって次第に崩れ、その姿を変えていきます。長い月日をかけ、形を整え積み上げられたこの一見堅牢に見える構造体は、多くの参加者の意思と偶然性によって、「生きた彫刻作品」として抽象的な形へと変化し、その短命な性質が明らになります。同様のブロックによる作品は、2017年、ニューヨーク・ワシントンスクエア・パークで発表され、自国とアメリカを隔てる国境の壁を模して、いかなる障害も人々の連帯によって解体されうることを示唆しました。

完全から無へ。栄枯盛衰の儚さを強調し、山のように崩れ去る土の体積。その彫刻作品を、ソディがスペイン・バルセロナ在住時に見つけた19世紀の古い植物の図版が支持体となった、シリーズ作品《Untitled》(2007年)が取り囲んでいます。カビに覆われたこの図版からページを抜き出したソディは、シリコーンの絵の具を塗布するやわらかいジェスチャーを残しています。それはまた、土や鉱物など多様な素材に向き合ってきたソディの全作品に通じて、有機的な変化に従う自然界の記憶に働きかけています。

尚、会期中を通して変容する煉瓦の構築物は定期的に撮影され、展覧会終了後にカタログを作成する予定です。