Tornscape2019installationdimensions variablephoto: Nobutada OMOTE | Sandwichinstallation view, “Throughout Time : The Sense of Beauty” , Nijo-jo, Kyoto, Japan, 2019
Tornscape
2019
installation
dimensions variable
photo: Nobutada OMOTE | Sandwich
installation view, “Throughout Time : The Sense of Beauty” , Nijo-jo, Kyoto, Japan, 2019

名和晃平「TORNSCAPE」

2021年11月2日(火)- 12月18日(土)
※予約制
開廊時間:12:00 - 18:00
※日・月・祝日休廊

刻々と変化する素材のフォルムに有機的なイメージを交差させ、鑑賞者の視触覚を刺激する新しい彫刻の在り方を打ち出してきた名和晃平。湧き上がるシリコーンオイルや暗がりに広がる泡沫など、素材の物性を引き出す運動の連続によって、生体とオブジェの境界に迫る表現を探求してきました。ギャラリーの空間全体を映像と音で満たす本展「TORNSCAPE」では、スクリーンがあたかも地球を取り巻く大気や海のように、情報を伝える皮膜となって鑑賞者を包み込んでいきます。

一面に広がる仮想ランドスケープの上を、異なる特性を持つ流体が蠢き合い反応変化し続ける映像インスタレーション「Tornscape」(2019年〜)。気象や物理データをもとに、風の強さ、粒子の質量や摩擦係数などパラメータを調整したデジタルシミュレーションが、無数の粒子の運動となって現れています。いくつもの流体が互いに接触し、反応し、蠢くイメージは、独自のアルゴリズムによって生成され、決して同じパターンを繰り返すことはありません。災害と疫病に見舞われた800年前の随筆(鴨長明『方丈記』)を参照しながら、本作は生まれては消える泡のように無常な世界を描き出し、今日の時代に共鳴しています。

火星の砂丘の形成理論をプログラムとして応用し、刻々と姿を変える流体のフォルム——。気象衛星画像における大気の対流や打ち寄せる波、風に流れる飛沫や微生物など、具象的なイメージがミクロとマクロの世界を横断し、深遠なスケールを感じさせます。同時に、人工物質の増大や化石燃料の燃焼など、人類の活動が自然環境に与えた甚大な影響を示唆しながら、想像の世界は地上が直面する現実へと引き戻され、メディウムを介した物理現象に取り組む平面作品シリーズに行き着きます。

濡れた黒い土壌を思わせる「Black Field」(2020年〜)は、油絵具と油を混合した素材でつくられたペインティング・シリーズ。パネルに積層したメディウムの皮膜はやがてひび割れ、裂け目から吹き出す液体が新たな時間軸を生み出しています。形状の変化は何週間も続き、画面全体に地表のように収縮と裂開のテクスチャが刻まれます。流体の運動を水平方向に捉えるこの視点は、シリーズ「Dune」(2020年〜)にも見て取ることができるでしょう。油絵具と粒度の違う絵具や水などを混合し、固有の粘度を持つメディウムを支持体を傾けて広げることで作られる本作は、地表の隆起や大気の流れを思わせ、仮想のランドスケープを上空から捉える視点となって本展の主題を深めていきます。

雨、雲、風、波、砂、土など、大気や地上で見られるさまざまな自然現象は、日々測定され、膨大な気象データとして蓄積されています。人工と自然という対立を超えて、あらゆる現象を粒子の集合、そしてその運動として捉えてきた名和は、自然現象をデータ化するプロセスの先に介入し、それをふたたび物質化することで、数値化された情報に新たな生命を吹き込んでいくかのようです。生物にとって最も根本的な条件でありながら、ともすると日常の認識の外に置かれてしまう大気や自然環境の変化——。本展では、音と映像、絵具というメディウムの協働によって、この生命を育む環境に視触覚的なリアリティを回復していきます。


プログラム:白木 良
サウンドスケープ:原 摩利彦