遠藤利克「Trieb一振動 II・III」

1999年9月24日(金)- 10月24日(日)

1950年生まれの遠藤利克は、ご存じのとおり、日本を代表する彫刻家のひとりとして70年代より活動を続けています。初期にはごくコンセプチュアルな、水を用いた作品や実験的な活動を中心にしていましたが、80年代以降、木を燃やして炭化させた存在感のある彫刻で国際的な評価を得ました。はじめは水路や舟のイメージをたたえていたこれらの彫刻は次第に「円環」という形態をとるようになり、遠藤利克の表現活動の上で重要な一つの時代を築くこととなりました。


その後、完成された「円環」の一連の作品から新たな方向性をめざした遠藤をとらえたのは、人間を突き動かす根元的な「欲動」(Trieb)の力でした。精神分析学の用語であるこの「欲動」は人間だけが持っている人間の行動規範を決定づける根元的な力であり、ふだんは意識の底に潜んでいます。それが理性の抑圧をはねのけて表面化する瞬間を、遠藤は「Trieb」と名付けた一連の作品群の中で顕在化させようと取り組んできました。その背景には、オウムのサリン事件や神戸の少年殺人事件など、現代社会の歪みや病理が映し出されてもいます。


今回の新作展では、この「Trieb」の概念の中の作品のひとつとして、水を用いた彫刻作品を展示します。また、遠藤は今回初めての試みとして、「音」の彫刻作品に取り組みます。こちらの作品でも同様に、「Trieb」のメタファーとしての水が表現されています。全く異なった手法で表現されるふたつの「水」の作品は、遠藤利克がここ近年表現し続けていた「物語が生まれる前の場所」を探る作品群の、ある種総括的な提示となるに違いありません。


また、遠藤利克が自ら撮影した写真を使ったドローイングも併せて展示します。

期間:1999年9月24日(金) - 10月24日(日)