池田 謙「Unspecialization」
池田謙はバークレー音楽院で音楽を学び、杉本博、森万里子、横尾忠則らの展覧会に楽曲を提供する一方で、テクノイズの老舗として有名なイギリスのTOUCHレーベルより2枚のアルバムをリリース、国内外の美術館・ギャラリーで映像作品を発表する等、自身の作品制作にも精力的に取り組んでまいりました。
100本近い古い邦画のビデオをTVモニター越しに撮影し、限りなく編集することで生み出される池田の映像作品は、映画につきまとう時間・物語といったあらゆるコンテクストから解き放たれた、どこに存在するのでもない亡霊のようなイメージを映し出し、鑑賞者に深い印象を残します。そして忘れてはならないのがその映像の背後に流れる池田自身によるサウンドの存在です。シンセサイザーのみを駆使して作られる、記憶を喚起するような美しくも妖しいサウンドは、「音響系」と呼ばれるいわゆるコンピューター・ミュージック全盛の当時の音楽シーンにおいてさえ、電子音楽を聞き慣れた聴衆に驚きをもって迎えられました。
このように、映像と音楽、両ジャンルを横断するアーティストとして認識されてきた池田が、「映像」と「音楽」、あるいは「視覚」と「聴覚」と単純には言い表せない新たな領域に今まさに踏み込もうとしております。本展では、従来の音と映像によるインスタレーションという展示スタイルから離れ、完全な暗闇の中で1940年代の邦画から抽出し加工した音のみを観客に投げかけます。一方的に感覚を刺激し麻痺させるようなマルチメディア作品が叛乱する現状のなか、シンプルかつ大胆に持ち込まれたこの「切断」により再生されるものは、音楽もしくは映像ではなく、消費化社会の中でスポイルされた我々自身の感覚であり、それは暗室での甦生手術と成り得るかもしれません。池田の新しい試みに是非ご注目ください。
なお、2月7日(土)からスタートする森美術館「六本木クロッシング」では、新作ヴィデオ&サウンドインスタレーションを発表いたします。こちらもご期待ください。
作家略歴:
1964 東京生まれ
現在東京とニューヨーク在住
[主な個展]
1999
「PICTURES」、SCAI THE BATHHOUSE、東京
「BEHIND THE SCENES」、SCAI THE BATHHOUSE、東京 2004
「Unspecialization」、SCAI THE BATHHOUSE、東京
[主なグループ展]
1994
「欲望の砂漠」、スパイラルガーデン、東京
2000
「Sonic Boom」、ヘイワードギャラリー、ロンドン
「Twilight Sleep」、ローマ日本文化会館、イタリア
第1回釜山国際コンテンポラリーアートフェスティバル、韓国
2001
「Le tribu dell’ Arte」、ローマ市現代美術館
「Radical Fashion」、 ヴィクトリア&アルバートミュージアム、ロンドン
2002
「SCREEN MEMORIES」、水戸芸術館現代美術センター、水戸
2004
「六本木クロッシング」、森美術館、東京
[主な作曲活動]
1994
「横尾忠則 映画全集展」、パークタワーホール、東京
1995
「森万里子個展 Made in Japan」、資生堂ギャラリー、東京
CD-ROM 「横尾忠則作品 Angel Love」
「森万里子個展」、Deitch Projects、ニューヨーク
「デビッド・リンチ展 Dreams」、パルコギャラリー、東京
1997
ビデオ「杉本博司映像作品 Accelerated Buddha」、Sonnabend Gallery、ニューヨーク
「森万里子個展 Mirage」、ギャラリー小柳、東京
「森万里子個展 Dream Temple」、プラダ財団、ミラノ
「森万里子展 WAVE UFO」、パブリック・アートファンド、ニューヨーク
[アルバムリリース]
2000
イギリスTOUCHレーベルより1stソロアルバム "tzuki" をリリース
2003
イギリスTOUCHレーベルより2ndソロアルバム “Merge”をリリース