イ・ブル 展 「S2」
開廊日時: 12:00-19:00 *会期中 日・月・祝日休廊
作品: 新作彫刻、ペインティング、ドローイング
1999年のヴェニス・ビエンナーレにおいて韓国パビリオンとアルセナーレでのダイナミックな展示により奨励賞を受賞して後のイ・ブルの国際的な活躍にはめざましいものがありました。2000年には妻有里トリエンナーレで湖の上にクリスタルの彫刻を展示するという斬新なプランを実現させ、2001年にはイスタンブール・ビエンナーレにて地下貯水池の荘厳なホールでサイボーグと映像作品、ギュスターブ・モローの「出現」にインスパイアされたサロメの彫刻を発表。2002年から2003年にかけてはヨーロッパとアメリカで同時に個展巡回があり、一方ではモンスターやサイボーグを網羅的に見せるという自身のレトロスペクティブ的な展開があり、一方ではフューチャリスティックな車のような形状のカラオケカプセルで映像を見せるというまったく大胆な展開で国際的な評価を確実なものにしてきました。2003年には2年ぶりの日本での個展(国際交流基金フォーラム、大原美術館巡回)として「Theatrum Orbis Terrarum (世界の舞台)」と題された壮大なインスタレーションを発表、新たな作品世界の発露として大きな話題を呼びました。
サイボーグやモンスターの彫刻に代表されてきたイ・ブルの作品世界はここ一、二年ひとつの転換期にあります。これまでの中空に吊られたオーガニックな個の形態が、「Theatrum Orbis Terrarum (世界の舞台)」に顕著なようにもっと集合体的な、生体というよりはもっと大きな宇宙やランドスケープのような存在感をもって新たに立ち上がろうとしています。そのきっかけがはっきりと形となった2004年秋のソウルの個展では今まであまり見られなかった自立式の彫刻二体が発表され話題を呼びました。カフカの小説からタイトルを引用した「Ein Hungerkünstler(断食芸人)」という作品はポリウレタンで成形された異形の身体が床面から起立し、クリスタルの白い糸をその体内から吐き出している彫刻です。既存の殻を破り新たに生まれ出ようとするアーティスト自身の大きな衝動が見てとれる作品といってよいのではないでしょうか。
今回の個展では、個の身体への問いであったサイボーグの作品を経たあとの、ある場所、光景をテーマにした作品展開が期待されます。それは我々がそれぞれに共有する物語世界のものごとであり、ユートピアとその破綻の物語でもあります。新作彫刻と、平面作品に表現されるイ・ブルの新たな展開にぜひご期待ください。