土屋信子「昔々あるところに、魚駐車というプロジェクトがありました」
土屋信子は1972年生まれ。2000年よりロンドンに在住、制作活動を行っています。初めての本格的展覧会出展が2003年の第50回ベネチアビエンナーレ。インターナショナルなアートシーンへまさに彗星のごとく現れた若手作家で、日本を含む世界中から注目されました。
とらえどころがなく説明しがたい土屋の作品は、ロジックを重んじる欧米では非常に衝撃的なものだったようです。彼らはどう理解すべきか掴めないというフラストレーションを抱きつつも、強烈な存在感を放つ作品に惹きつけられ、その不可解さの中にこそ作品の複雑でデリケートな魅力がある、と高く評価しました。またその評価を裏付けるかのように、サーチギャラリー、サンドレッド・レバウデンゴ財団、メゾンルージュなど、世界に名だたるコレクター達が作品をいち早く収蔵しています。
土屋信子の作品は、身近なものや廃材などを自在に組み合わせて作られています。特定の使い道のあった物質が、作家の手を通すと作品の中で全く別の表情を持ちはじめます。何かの実験途中のようであり、朽ち果てたロボットのようなそれらの作品は、不思議な懐かしさと親しみやすさを呼び起こし、あらゆる人々が普遍的に共有する記憶や感覚へ訴えかけてきます。
けれども、作品が一体何を意味し、意図しているのかは明らかにはされません。本展のタイトル 「昔々あるところに、魚駐車というプロジェクトがありました」 が端的に示すように、土屋の作品は常に何か特別な物語の存在をにおわせながら、私たちの思考を答えの出ない迷路へと閉じ込めてしまうのです。
今回の展覧会に関しても、魚って何?どこに駐車するの?・・・・疑問は次々に湧いてきますが、ここで作家に一つの答えを求めるよりも、観る者それぞれが自分の物語を見つけ出して作品とコミュニケートする方が楽しめて、作家の意図を超えた想像の域にすら到達するのかもしれません。
本展は土屋信子の日本で初めての展覧会となり、SCAI THE BATHHOUSEの空間にあわせ、大小様々の新作立体約15点ほどが展示されます。個々の作品が連動し合い、一つの大きなインスタレーション作品のようにも見える構成となる予定です。
国際的に幅広く活躍中である土屋信子の全貌を、初めて日本で紹介する興味深い展覧会です。