神谷 徹
「Modest Engagement」

2016年5月20日(金)- 6月25日(土)

神谷徹は1969 年生まれ。東京芸術大学油画科大学院修了の後、アイルランド政府奨学生としてダブリンに滞在。現在は京都造形大学准教授として京都に在住、制作を行っています。洗練された色彩が印象深い神谷徹の作品は、公共の場に設置される機会も多く、虎の門ヒルズのオフィスエレベーターホール、東京ミッドタウンのオフィスエントランス、九州歯科大学講堂柱画、などに作品が恒久設置され、多くの人々に親しまれています。

展覧会名「Modest Engagement」は、神谷徹の作品、コンセプト、制作姿勢の全てを象徴しているといえます。
作家の説明によると Engagement(とりきめ、約束)とは絵画との関わり方であり、また絵画と関係を結ぶことを意味するとのこと。この結びつきはアーティストにとってだけではなく見る側の人にも発生し、それぞれが絵画と対峙した時に、制作や鑑賞するという行為が生じるととらえられています。しかし、それはあくまで Modest(ひかえめな、おおげさでない)なものであり、時間をかけて親密さが育っていくようなイメージだとのことです。 絵画と向き合うことへの考察をゆるやかに提起しようという、作家の姿勢が感じられるタイト ルです。

神谷徹のグラデーションの色彩だけで表現される極めてシンプルな絵画は、描くということを突き詰めた形態であるといえます。なぜ描くのかという理由付けや、描かれたものの意味も重要なことであるかもしれませんが、同時に制作する者や鑑賞者も型にしばりつけることにもなります。より自由に、けれども同時に本質に迫るような絵画とは何かを追求すると、色彩のみの視覚だけの世界に到達するのかもしれません。壮大なテーマやコンセプトなどを敢えてそぎ落とし、特別な意味合いが極力出ないように制作される神谷の作品は、何も持たないゆえに非常にオープンな状態で人々を受け入れます。ゆえに鑑賞者は純粋に絵画を見るという喜びを得ることができるのです。

本展では銭湯である天井の高いギャラリー空間を生かし、おおよそ 5x3m におよぶ大型の絵画作品を中心に構成されます。マットな表面処理をされたペインティングは、画面の中に取り込まれてしまいそうな深みがあり、それぞれの持つ色彩が楽しめます。また、会場全体をインスタレーションとして見立てると、個々の作品が重層的になって調和し、まるで一つの楽曲を醸し出しているようにも見えるでしょう。

《pilot》2015年 コットンにアクリル絵具、92x 54.5 cm
《pilot》2015年 コットンにアクリル絵具、92x 54.5 cm