宮島達男 / ダレン・アーモンド / 森万里子
洗練された幾何学的なフォルムとそこに流れる時間と光———普遍的な法則に即して空間を開く彫刻のあり方は、ミニマリズムの系譜を引き継ぐ現代彫刻の一様式として発展してきました。鑑賞者を没入させ人知を超える崇高性を示唆するこれらの作品は、月の満ち欠けなど古代から続く天体観測から最新の宇宙論まで多様な視点を取り入れ、自然科学とアートを結びつける実践の先駆けとなりました。宮島達男、ダレン・アーモンド、森万里子による本展は、そうした科学的なアプローチを参照して、鑑賞者の知覚を呼び覚ます現代アートの姿を描きます。
古代ケルトや縄文文化における儀式や信仰などを題材に、生と死を象徴するモニュメントを制作してきた森万里子。西洋と東洋の神話が最新素材を用いて蘇り、過去と未来の間に漂います。彫刻による時代の超越と「無限」の探求とも言える森の制作活動は、考古学から物理学へとさまざまな研究領域を横断し、絶え間ない挑戦を続けています。近年では、「宇宙の96%は見えないエネルギーで構成される」と言われる学説に着想を得、さまざまな宇宙論の解釈に基づく彫刻を発表しています。
ダレン・アーモンドは、1990年代から日本を訪れ、京都・比叡山で月光のもと撮影したシリーズなど、未知への遠征と光の感度に導かれた写真作品や彫刻作品を制作してきました。古来より航海術は、昼の太陽と夜の星の位置を頼りに行われ、光は空間の移動や旅と強く関連付けられています。ペインティングシリーズ “Timescape”(2016年〜)は、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた星雲や恒星系のイメージから作図され、アルミニウムパネルに幾重にも重なり合う色のアクリル絵具のレイヤーが、天文学的資料と絵画の技法によって生み出されています。
「生命体のような動きをするガジェット」を求め、人工知能の研究者とも共同制作をしてきた宮島達男。野外彫刻として設計された《Moon in the ground No.2》(2015年) は、円形の鏡面が環境を写し込み、LEDカウンターが満ち欠ける月のように時を刻みます。生命の循環を数字という象徴に託した本作は、永遠の繰り返しと光の波及による静かな瞑想を促し、時間の経過や流転といった自然のサイクルを強調しています。これらの作品に現れるのは、現代社会に対する深い洞察と、時代を超えて流れる精神性へのまなざしです。
かつてソル・ルウィットが「コンセプチュアルアーティストは、合理主義者というよりも秘教主義者である」と言ったように、制作におけるコンセプト(観念)への比重の移行は、一方で現実世界からの退却を意味しています。それは実社会の営為をより普遍的な枠組みから見定めるための、ひとつの方法となります。遠くからいまを振り返る思索や瞑想が、さまざまな実証的な研究領域に結びつくとき、私たちの頭の中の働きが身体を流れる太古のリズムに呼応するのが感じられるのではないでしょうか。