李 禹煥
「絵画展」
李禹煥(1936年〜)は、1956年より日本に在住。60年代後半の美術表現動向「もの派」の中心人物であり、現在に至るまで国際的に活躍をし続けています。
近年の主な活動は、2011年グッゲンハイム美術館、2014年ヴェルサイユ宮殿での個展など。2019年はポンピドゥー・センター=メス(フランス)での回顧展があり、ディア・ビーコン(NY)に恒久設置の展示室が設けられました。また現在ハーシュホン美術館(ワシントンD.C.)には10点におよぶ新作彫刻が敷地内に長期展示されています。
この度開催される本展は絵画のみで構成。2000年以降から展開しているDialogue(対話)シリーズの最新作が展示されます。グレーの単色のみで始まったDialogueが、約20年を経て色彩豊かに展開していることは驚きをもって受け入れられるのではないでしょうか。
描かないことによって余白を作り出すのが李作品の特徴で、描いたものと描かれていないものとが共鳴しあって絵画になるというコンセプトに基づいている点には変わりはありません。筆のワンストロークのように見える色面は、非常にシンプルな形状をしており鑑賞者に白い余白を強く意識させます。その何も描かれていない部分によって空間が意識され、描かれた対象だけでなく展示空間全体までが作品となっています。そういった意味で、一見ごく単純に見える李禹煥の絵画作品は非常に立体的で、身体性をも備えているといえるでしょう。
もはや美術作品がアナログに制作されることが少なくなった現代において、実際に体を動かして作品を作り続ける作家の姿勢は、1960年代頃の急速に進む近代化に異議をとなえた「もの派」が形成された時代に奇しくも重なっているようにも感じられます。人工的に作られるもの、人の手でしか作り出せないもの、自然にしか発生し得ないもの、これらの関係性は常に作家の中で重要な要素になっています。