土屋 信子
「Stay as a wave」
開廊時間:12:00 - 18:00
※日・月・火・水・祝日 休廊
※2023年4月29日(土)、5月4日(木)、5日(金)、6日(土)、6月1日(木)は連休と設備検査のため休廊
吊り下がったワイヤー、ふわふわのウール、透明な樹脂が象る謎めいた形状、壊れてしまいそうな繊細なガラス-身近なものや廃材を自在に組み合わせて象られる土屋信子の立体作品は、展示空間に配置された独自の視覚言語となって鑑賞者の感性に語りかけます。国際的に活発な活動を展開して来た作家による本展「Stay as a wave」は、第一室および第二室に配された全て新作のインスタレーション群にて構成されます。これまでも「宇宙」や「月」といった題材を糧に発揮された土屋のイマジネーションは、本展においてさらに発展を遂げ、subatomic(亜原子粒子、素粒子)から音波にまで変容しながら、展示空間に鳴り響いているようです。
あらゆる生命および非生命に至るまで、宇宙に存在する全ては素粒子で出来ており、ルーツを同じくするものである、とは最新の物理学理論であり、土屋の有する世界観でもあります。生命についての彼女の近年の思考は、作品制作の過程においても少なからぬ影響を与えているようです。通俗的な解釈から放たれた自由な構造としてそれぞれが独立して見える作品群は、空間全体では謎めいた符号が共に奏でる一遍の詩のようにも浮かんで来ます。体から湧き上がるイマジネーションを作品へと昇華する土屋の実践は、視覚や触覚といった鑑賞者の五感を刺激しながら、それぞれの体感を通じてより深度を増し、物語性を伴う連なりとなって見る者の想像力を圧倒するようです。
第二室には、作家と素材とのやり取りから生まれた新作の立体作品が展示されています。同じ高さの台に並ぶ様々な作品群もまた、ユーモアにあふれた形状とともに注目を喚起することでしょう。ワイヤー、フェルト、あるいは樹脂といった素材を自由に組み合わせた形状からは、作家の趣向や意図を読み取ることは難しく、それらは土屋の制作でありながらも、ものがそれ自体の自発性によって立ち上がり、生成されたようにも思えるほどです。元々の用途や形から完全に解き放たれた素材と、組み合わせの新鮮さが際立つこれら立体の作品群は、土屋の真骨頂といえるでしょう。
本展制作に向かう過程において、「Stay as a wave」というフレーズが頭に浮かんだと土屋は言います。英語では様々な解釈が可能なこの言葉は、彼女の作品の性質を代弁するようにも、また鑑賞者へと向けられたメッセージのようにも受け取れます。土屋は独自の思考をさらに研ぎ澄ませ、作品構成によって展示空間をひとつの装置へと昇華しています。鑑賞者の体感を促す新作が並ぶ土屋信子の思考と実践の集大成を本展「Stay as a wave」においてぜひご高覧ください。