ボスコ・ソディ
「GALAXY」
木材、岩、土といった自然素材を用いた大規模なインスタレーションや絵画で国際的な評価の高いボスコ・ソディ。現在はニューヨークを中心に、Casa Wabiと名付けた母国メキシコの滞在型施設のほか、世界各国に構えた数々の制作拠点で活動し、展覧会が開催される土地の風土と気候を作品に反映させるサイトスペシフィックな制作手法も特徴的です。昨年ベニスビエンナーレと同時期に開催された個展(「What goes around comes around」Palazzo Vendramin Grimani、ベニス、イタリア、2022年)では、観客との対話を促す粘土のインスタレーション、またルネサンス期のイタリアを席捲した洋紅(Carmine)のルーツに着眼した新作群で話題を呼びました。SCAI THE BATHHOUSEでの5年ぶりとなる個展「GALAXY」においては、新作群の発表とともに、近年のソディの取り組みを包括し、次なる展望を見通す統括的な展示が構想されています。
黒地に紫が印象的なキャンバスが壁面を取り囲んでいます。おが屑と他素材を調合した独自のメディウムを表面に施し、乾く過程で表面に生じたひび割れをも自然のジェスチャーとして包摂した絵画作品です。ソディの素材への探求心は、かつて化学工学を学び、またアントニ・タピエス(1923-2012)をはじめとする美術家達によってもたらされた多様なバックグランドによって培われています。また、キャリアの初期の頃から使用しているおが屑については、画家ジョルジュ・ブラック(1882-1963)の実践に感化されたことも明かしています。
展示室の真ん中には、黄金の球体が設置されているのが見えます。金の釉薬でレイヤーをかけたという粘土の球体の表面は同じくひび割れ、それが化学的な焼成の過程を経ていることを喚起しています。アジアからヨーロッパまで、黄金はいずれの文化圏においても神聖な性質を帯びたものだったと作家は語ります。素朴な素材と釉薬との組み合わせはソディがこれまで取り組んで来た代表的な実践のひとつですが、Casa Wabiにて粘土を象り、メキシコシティの別アトリエで釉薬の仕上げを施したという本作は、拠点を移しながら制作し、その影響を試行する作家の思考の過程が現れているとも言えるでしょう。
麻袋に描かれたペインティングの連作は、コロナ禍において隔離生活を送る中、マーケットの古びた袋をキャンバスの代用品として用いたことがきっかけでした。太陽や月を思わせる丸のドローイングは、作家の手によって直接描かれたものです。制作への希求と試行錯誤により生まれたこの連作は現在にもおよび、Casa Wabiに滞在する際は、今でも1日1枚麻袋に描くことを続けていると作家は言います。本作をアルテ・ポーヴェラおよび日本の具体美術への関心とも結びつけるソディは、金や色彩を用い、また素材との直接的な対話を通じて、貧しいものが崇高なものへと変容する瞬間を探求しているようです。また、麻は古くから聖人が身につけた素材であったことを、作家は指摘しています。
暗い背景に浮かぶ鮮やかな紫、円の重なり、そして展示室を支配する輝く球体 - 鑑賞者は、本展が平面や立体で表された球体のモティーフによって満たされていることに気がつくかも知れません。それは、粘土や麻、木材や鉱物など、生の素材が神聖さを帯びる瞬間が描き出す宇宙(ギャラクシー)そのものです。日本では初公開となる新作群とともに、近年ますます国際的評価を高めるボスコ・ソディの現在地をぜひご高覧ください。