SCAI PIRAMIDE SCREENING PROJECT vol. 2 - Inextinguishable Fire
ヴァジコ・チャッキアーニ
ウィル・ローガン
ハルーン・ファロッキ
アピチャッポン・ウィーラセタクン
開廊時間:12:00 - 18:00
日・月・火・水・祝日 休廊
※Art Week Tokyo期間 : 11月2日(木)3(金)4日(土)はオープン
協力:Misako and Rosen、Harun Farocki GbR、ゲーテ・インスティトゥート東京
この度SCAI PIRAMIDEでは、ハルーン・ファロッキ、ウィル・ローガン、ヴァジコ・チャッキアーニ、アピチャッポン・ウィーラセタクンによるスクリーニングプロジェクト vol.2を開催いたします。「消えない炎」を意味する本展タイトルは、ハルーン・ファロッキによるベトナム戦争とナパーム弾についての考察を巡る同名のメタドキュメンタリーから引用されました。「火」をモティーフに描かれる三者三様の映像世界を紹介するとともに、第一室ではテーマに沿ってセレクトされた立体作品およびインスタレーションが展示されます。
ヴァジコ・チャッキアーニ(1985年ジョージア生まれ)は、個人的な記憶と歴史の外傷的出来事を彫刻やインスタレーション作品で取り扱う手法で知られています。新作の「The Warm Winter Sun」(2022年)は、中年男性が幼少期を過ごした田舎の実家に帰る姿が描かれています。幼年時代の経験、トラウマなど彼の人生の様々な記憶が象徴的な事物と共に映写され、やがて家は男のつけた火によって凄まじい勢いで燃えはじめますが、その一方で炎の中に亡霊のように浮かぶ家族の姿や幼い自分は、過去との決別を果たそうとする男の強烈な行為に疑問を呈しているようにも思えます。また、第二次大戦時の公共彫刻のコピーを元に制作された立体作品は、社会的記憶へのチャッキアーニの介入の表現であるとともに、顔や手といった体の一部は、彼の映像から燃え落ちてきた残骸のようにも見えてきます。
ファウンド・オブジェを用いた彫刻表現で知られるアメリカ出身の作家ウィル・ローガン(1975年アメリカ生まれ)については、鍵や指など謎めいたモティーフを取り上げた立体作品とともに、ほんの数秒間の霊柩車の爆発の瞬間を、スローモーションによって超現実的な8分間の出来事へと転じた映像作品が紹介されます。《The Eraser》(2014年)と題された本作は、爆発の遅延が最終的にやって来る死というエンドに限りなく抵抗しているようでもあり、または死者を二度破壊するという徹底的な消滅へのコミットメントも喚起させ、その皮肉めいた味付けが特徴的です。
ドイツ実験映画の巨匠で理論家のハルーン・ファロッキ(1944年チェコスロバキア生まれ、2014年ベルリン没)は、《InextinguishableFire》(1969年)によるベトナム戦争についての考察を巡り、時代を超越した当事者性を我々の眼前に突き付けてきます。ナパーム弾の特性を描写する「消えない炎」は、人類が経験した取り返しのつかない外傷の象徴であり、それはいまでも燃え続けていることを示唆しているかのようです。ファロッキは、労働、戦争およびテクノロジーの背景にある諸問題や現代社会の構造に迫る映像を制作してきました。三十年近く前に作られた本作の現代性は、今を生きる我々の心に問いかけ、鋭い波紋を投げかけてきます。
一方、アピチャッポン・ウィーラセタクン(1970年タイ生まれ)もまた、彼の数多くの作品の中で「火」をテーマに取り上げています。第一室の壁面に設置された写真と映像から成る作品群は、幻影の関係性の一部である、と彼が言う「火」のワークに焦点が当てられています。生まれ故郷で台風が来る直前の景色を撮影したという《Fire Garden》(2016年)は、チェンマイの緑豊かな自然に火の粉の輪郭が重なっていく様子が独特の魅力を放つ作品です。ウィーラセタクンはまた、彼の作品中しばしば登場する火、およびそれが生起する破壊と創造のサイクルについても言及しています。
通り過ぎた歴史とそれらが残した傷跡 - 個人においても、よりグローバルな社会的領域においても - それらは果たして消し去ることが出来るのでしょうか。火は燃え続けています。あるいは、「最も重要なのは火の中をどれだけうまく歩くか」※1という視点なのかも知れません。
※1 “What Matters Most is How Well You Walk Through the Fire” Charles Bukowski、 2002年 ECCO出版 より引用